編みたい作品の指定糸が手に入らない。 別の毛糸を探すと、ラベルのゲージが同じものは見つかった。 それなら編み図どおりに編めるかというと、まだ確認が要ります。
ラベルの標準ゲージが近い糸は候補になりますが、実際に編んだゲージが合っても、厚みや落ち感、洗濯後の形まで同じになるとは限りません。 同じサイズを作りたいのか、写真のふくらみを残したいのか、家で洗いやすくしたいのか。 代用糸は、作品の何を保ちたいかから選ぶと判断しやすくなります。
ハマナカも、使用針や標準ゲージ、見た目から近い商品を案内できる場合でも、針の号数などの調整が必要になり、初心者には難しいことがあると説明しています。 「似た糸が見つかった」と「そのまま置き換えられる」は、ここで分けて考えたいところです。ハマナカの代用糸に関するQ&A
「同じゲージ」は、何と何を比べている?
毛糸のラベルにある標準ゲージは、糸を選ぶ際の目安です。 作品の編み図に書かれたゲージと、自分で試し編みしたゲージは別に確認します。 ラベルの数字同士が一致していても、編み図が指定する模様を自分の手加減で編んだ結果まで一致するわけではありません。
たとえば「10cm四方で20目28段」なら、横10cmに20目、縦10cmに28段という意味です。 横の目数だけを合わせて、縦の段数を見落とすと、幅は合っても丈や増減目の位置がずれることがあります。
数字は小さく見えても、作品全体では差が出ます。 仮に100目の平らな編み地を作るなら、20目/10cmでは幅50cm、18目/10cmでは約55.6cmです。 計算は「100目 ÷ 10cmあたりの目数 × 10cm」。 これはとじしろや模様による変化を含めない説明用の例ですが、2目の差を誤差で済ませにくい理由は分かります。
段数の違いも、単に最後へ数段足せば解決するとは限りません。 「何cmまで編む」という直線部分なら実寸で調整できる場合がありますが、袖の増目や肩の減目など、段数に合わせて形を作る部分は編み図全体との整合が必要です。 目数も段数も合わないまま、サイズ欄だけを一つ上下させる方法は勧めません。
模様と仕上げの条件まで読む
ゲージの横に「メリヤス編み」「模様編み」「仕上げ後」などの指定があれば、数字と一緒に読みます。 Brooklyn Tweedのカーディガン「Arlo」には、同じ針で編むメリヤスとケーブル模様に、異なるゲージが記載されています。 模様編みの作品を、ラベルのメリヤスゲージだけで判断できない具体例です。Arloの公式仕様
別のカーディガン「Chicane」では、編んでいるときと、ブロッキング後のゲージを分けています。 ブロッキングとは、編み地を整えて仕上げる作業です。 仕上げ前の数値を、仕上げ後の指定と比べてしまうと、調整する方向から間違います。Chicaneの公式仕様
編み図に測定条件がなく判断できない場合は、出版社やデザイナーの補足を確認します。 「ゲージは必ず洗濯前」「必ず洗濯後」と一律に決めるより、使う編み図の前提を確かめる方が確実です。
針を変えて数値が合っても、編み地は選び直せる
ゲージを合わせるために針を変えたら、数値は合ったけれど、編み地が好みより硬い。 反対に、目の間が広くなり、薄すぎると感じることも考えられます。 そのときは、数値が合ったことだけを理由に採用しなくてよいです。 着るものなら、その厚みで着たいかまでが糸選びです。
素材の違いも、寸法とは別に見ます。 Knit Picksは、羊毛の弾力に繊維の縮れが関わることを説明しています。 綿の解説では、糸自体の弾力が乏しくても、ゴム編みなどの編み方で伸び縮みする編み地を作れるとしています。 つまり、素材の性質と、編み地としての伸び方を同じものとして扱えません。羊毛の解説、綿の解説
ウールから綿へ変えるなら、同じ幅に編めるかに加えて、袖口を伸ばした後の戻り方や、身頃の落ち方も見たいところです。 夏向けの、さらりとした編み地へ変えたいなら、風合いが変わること自体は失敗ではありません。 冬用のふっくらした印象をそのまま残したい場合とは、採用する条件が違います。
混紡率、撚り方、糸の構造も比較の材料になります。 Knit Picksの代用糸を扱う公式番組案内でも、長さと重さ、ゲージ、繊維の性質と構造、作品が求めるものを合わせて考える方針が示されています。 「綿だから必ず伸びる」「ウールなら元に戻る」と素材名だけで結果を決めず、候補の糸で編んだ状態を確認します。Knit Picksの代用糸の案内
作品で残したいものを、先に一つ決める
候補を比較するときは、写真に似ているかを一度脇へ置いて、その作品を使う場面から優先順位を付けます。 次の表は、寸法や素材の資料を踏まえて、試し編みで見る場所を整理したものです。 どの糸にも当てはまる合否基準ではありません。
| 残したいもの | 試し編みで見るところ | 変えてよいか考えるところ |
|---|---|---|
| セーターのサイズ | 指定条件での目数と段数、洗濯前後の寸法 | 写真と違う厚みや落ち感を許容できるか |
| ケーブル模様の見え方 | 実際の模様を編んだときの凹凸や輪郭 | 毛羽や色の違いで模様の印象が変わってよいか |
| 袖口や帽子のフィット感 | 伸ばしたときの抵抗と、離した後の戻り方 | 締め付けやゆるさが変わってよいか |
| 日常の手入れのしやすさ | 糸の取扱表示と、許された方法で洗って乾かした後の状態 | 元の糸とは違う仕上がりを受け入れられるか |
たとえば、洗濯機で洗いたいことが代用の目的なら、手洗い指定の候補を最後まで残す理由は薄くなります。 ゲージが近くても、欲しかった使い方に合いません。 逆に、マフラーの長さは少し変わってもよく、首に触れる風合いを優先するなら、サイズの許容範囲を広く取れます。
この順番なら、すべての条件が元の糸に似ている商品を探し続けずに済みます。 守る条件が合わなければ別の糸へ、変えてよい条件だけが違うなら試し編みへ進めます。
スワッチは、洗って乾いたところまで確かめる
試し編みした小さな編み地を「スワッチ」と呼びます。 Knit Picksのゲージ確認ガイドは、作品に指定された編み方で作り、自然に置いた状態で目と段を数えることに加え、完成品と同じ手入れをして、乾いてから再測定することを勧めています。スワッチの公式ガイド(PDF)
実際に試す際は、次の記録を一緒に残すと、針や糸を変えた後も比べられます。
- 糸名、使用針、編み方をメモし、測る範囲より余裕のある大きさで編む。
- 引っ張らずに置き、端を避けた部分で、目数と段数、編み地の縦横を測る。
- 糸の取扱表示で許された範囲で、完成品に予定する洗い方と乾かし方を試す。
- 十分に乾いた後に同じ部分を測り、模様、厚み、手触りも比べる。
編み図に仕上げ方の指定がある場合も、代用糸がその処理に対応するか確認します。 水洗い不可の糸を、ゲージ確認のためだけに水へ浸したり、スチーム不可の糸へ蒸気を当てたりはしません。 手入れ方法が分からなければ、試す前にメーカーや販売店へ確認します。
仕上げ前後の差は、横と縦を分けて残します。 仮に、同じ目数の部分が洗う前に10cm、乾いた後に10.5cmなら、その部分の幅は5%増えています。 計算は「(10.5 − 10)÷ 10 × 100」。 実際の糸の測定値ではありませんが、「少し伸びた」というメモより、寸法が重要な作品に使うかを考えやすくなります。
ただし、小さな編み地では、長い身頃の重みや、着用を繰り返したときの変化まで再現できません。 スワッチは候補を絞る判断材料です。 大きな作品ほど、編み進めた段階でも寸法を確認し、メーカーやデザイナーが示す代用例があれば、その条件も参考にします。
必要量は「同じ玉数」から離れて考える
採用する糸が決まっても、元の作品と同じ玉数を買えばよいとは限りません。 1玉の重さも長さも商品によって違うため、まず編み図が必要量をグラム、メートル、玉数のどれで示しているかを確認します。
仮の例として、指定糸が1玉120mで5玉なら、用意する糸の長さは計600mです。 代用候補が1玉150mなら、「600m ÷ 150m/玉 = 4玉」で同じ長さになります。 これは長さをそろえた換算値で、4玉あれば作品が完成するという保証ではありません。 試し編み分、サイズ変更、編み地の違いによる使用量の差も残るため、実際の必要量は編み図やメーカーの案内と合わせて検討します。
迷いが残ったときは、編み図の作品名とゲージ、元の糸の情報、候補の糸、残したい仕上がりをそろえて販売店へ相談すると、判断の前提を共有できます。 調整が難しい形の服なら、気に入った糸に対応する別の編み図を選ぶ方法もあります。 糸の代用にこだわるより、その糸で作りたい一着が見つかるかもしれません。

